RNAiガイド

RNAiガイド

作業1 : RNAiの誘導法とその選択

RNAiの実験を始める前に、研究対象となる細胞や遺伝子の特徴に応じ、目的にあった手法を選択する必要があります。 実験にあたっては、一般的に培養した細胞を用いることがほとんどですが、その理由として、

  • 選択したsiRNAがRNAi効果を誘導できる配列であるかどうか。
  • 対象とする遺伝子が容易にノックダウンできる遺伝子であるかどうか。

を確かめるために、培養した細胞を用いて、RNAi実験により基礎データを得ることができるからです。
RNAiを誘導する手法として、主に以下の2つの方法があります。

  1. 合成siRNAを用いた手法
    合成siRNAを用いて実験を行う場合は、直接RISCに作用することで標的遺伝子のmRNAを抑制することができますが、一過性の反応ですので、用いるトランスフェクション試薬の効率の高低が実験の成功の鍵となります。
  2. 発現ベクターを用いた手法
    ベクターを用いてsiRNAを発現させる場合、一度、細胞内に導入してしまえば、RNAi効果が恒常的に持続することが期待できます。しかし、その安定発現細胞株の確立のために、
    • shRNAの設計
    • オリゴDNAの合成
    • shRNA発現ベクターの構築
    までの条件検討が必要となり、手間と時間がかかります。
    また、最も重要な点は、発現ベクターからできるsiRNAは、ベクターからの転写産物が細胞内でDicer等のRNase酵素IIIにより切断される際に切断箇所に正確さを欠き、切断点が目的の配列から1‐2塩基ずれる可能性があります。

どちらの手法もRNAi実験を進めるにあたって、ターゲット遺伝子を細胞内に導入する必要があります。
一般的に、合成したsiRNAの細胞内への導入はトランスフェクションによって行われます。また、ベクターの細胞内への導入については、DNAベクターの場合、そのまま培養細胞へトランスフェクションすることで、RNAiを誘導することもできますが、レトロウイルスベクターやレンチウイルスベクター等のウイルス感染によっても細胞内へ導入することができます。

作業2 : siRNAの細胞への導入(トランスフェクション試薬の選択および条件の至適化)

RNAi実験の成功の鍵は、siRNAの細胞内への導入の良否にかかっています。
一般的に、siRNAには脂質系のトランスフェクション試薬が多く用いられますが、細胞の種類ごとにトランスフェクションの効率は大きく異なってくるので、ターゲット遺伝子の細胞内への導入にあたっては、適したトランスフェクション試薬と方法を選択し、細胞ごとのトランスフェクション条件の至適化を行う必要があります。

  1. 細胞種の選択
  2. 選択した細胞種の培養状態の確認
  3. 細胞に適したトランスフェクション試薬の選択および至適化の検討

トランスフェクション試薬の至適化にあたっては、細胞の生存率とsiRNAの導入効率の兼ね合いの中で、生存率がそれほど低くないレベルで最大の効率が得られるような条件で至適化を行います。

作業3 : コントロールsiRNAの選択

目的のターゲット遺伝子に対するノックダウン効果を正しく評価するために、目的に応じたコントロールsiRNAを用いた実験を平行して行うことは極めて重要です。
選択したsiRNAが効率的に導入されているかどうかの確認や、目的のmRNAのターゲット遺伝子に対するノックダウン効果を正しく評価するためには、そのコントロールsiRNAの選択も実験の成功の重要な鍵となります。

  1. ポジテイブコントロールsiRNA
    ポジテイブコントロールsiRNAは、適切なトランスフェクション条件下で高いRNAi効果が確認されている配列を用います。目的のsiRNAの細胞内でのRNAi効果(持続性や発現抑制率)やその再現性の確認のための目的手段となります。
  2. ネガテイブコントロールsiRNA
    ネガテイブコントロールsiRNAは、細胞内に導入してもどのmRNAにも相補性を持たないものを選びます。特に内在性の遺伝子をsiRNAのターゲットとする場合には、その遺伝子由来の生物のゲノム上に存在しない配列を選びます。
  3. スクランブルコントロールsiRNA 目的のsiRNAとG、C、A、Uの各塩基の含有する比率は同じくして、配列のみをランダムに変えたもので、ネガテイブコントロールとして用いられます。配列の設計にあたっては、
    • 元の配列から完全に逆に設計する。
    • 配列に数塩基のミスマッチを入れる。
    • 中央の配列のみを両端へずらす。
    等の様々なアイデアで設計されます。
作業4 : RNAi効果の評価

実験により得られたRNAi効果の評価方法にあたっては、同じ遺伝子からの配列設計であっても、導入した2本鎖のsiRNAの配列の違いにより、異なるレベルのRNAi活性が見られることを考慮しなければなりません。
従って、RNAi効果の測定には導入したターゲットとなる遺伝子の発現量を正確に捉えることが必要です。

RNAiが誘導されると、最初にターゲットの遺伝子のmRNAの減少が効果としてRNAレベルで現れます。最後に、mRNAの減少のレベルに合わせてコードされたタンパク質の減少が現れます。減少のレベルの評価法には様々な方法がありますが、通常、mRNAレベルでの発現量の変化からノックダウンの効率を測定します。また、タンパク質レベルでの発現量の変化を測定することもできます。
どちらの方法も、色々な定量法が知られていますが、操作性や簡便性から定量に最も優れている方法として、

  1. mRNAレベルでの測定法として:RT‐PCR法、ノーザンブロット法
  2. タンパクレベルでの測定法として:ウェスタンブロット法、ELISA法が最もよく利用されます。

が最もよく利用されます。

RNAi基礎知識 ‐RNAiとは?‐

RNAiの発見

RNAiとは、siRNA(short interfering RNA:19~27塩基程度の短鎖RNA)あるいはdsRNA(double strand RNA:30塩基以上の長鎖RNA)によって、配列特異的にmRNAが分解されて遺伝子の発現が抑制される現象です。

1998年のRNAiの発見に先立って、遺伝子の発現を抑制するコンベンショナルな手法として、アンチセンス配列やリボザイムが広く利用されてきました。しかし、これらの手法は、標的遺伝子の性質に対する依存度が大きく、また、高濃度での処理が必要なことから、遺伝子の発現を完全に抑制するのには効果が不十分でした。RNAiの発見は、こうした欠点を克服する画期的な手法として、注目を集めています。

RNAiは、酵母やカビを含むあらゆる生物種に存在する現象であり、基本的な生命現象の一つであると考えられます。また、RNAi実験に用いるsiRNAは化学合成が容易で、しかも少量で効率よく遺伝子のサイレンシングを起こすことが見出されています。RNAiを利用することにより、その遺伝子機能解析を通じて、RNAそのものを用いた新しい治療薬の開発につながるものと期待されています。

インターフェロン応答

RNAiは、長さが19~27塩基程度の短鎖のRNA(siRNA)で効果が認められています。哺乳類では、長鎖のdsRNA(長さが30塩基以上)を細胞内に導入すると、dsRNA応答性プロテインキナーゼ(PKR)が活性化し、インターフェロン応答が誘導されます。

インターフェロン応答は、細胞に導入された2本鎖RNAを感知し、インターフェロン応答遺伝子(ISG)であるPKRを発現誘導する結果、タンパク質合成の阻害と細胞内のRNAの分解が誘導されます。
その結果、非特異的な遺伝子発現の抑制や細胞毒性(アポトーシス)が誘導され、細胞が抗ウイルス状態となり、RNAiによる特異的な遺伝子発現の抑制が認められなくなってしまいます。

従来、インターフェロン応答は、30塩基以下の短いRNAであれば回避できると考えられてきましたが、短鎖のRNAでもインターフェロン応答を誘導することが明らかとなり、今後の大きな課題となっています。

RNAiの仕組み

dsRNAが細胞内に導入されると、最初にRNaseIIIの一つであるDicerによって、21~23塩基程度の短鎖RNA(siRNA)に切断されます。その後、siRNAの一本鎖化が起こります。1本鎖となったsiRNAは、RISC(RNA induced silencing complex) という配列特異的にターゲットRNAを分解する活性を持ったタンパク質複合体に取り込まれます。
この際、siRNAのどちらの鎖がRISCに取り込まれるかは、siRNAの両末端の塩基対合の強さによって決定されると考えられています。

RISCは取り込まれた1本鎖siRNAとともに、このsiRNAと相補的な配列を持つターゲットRNAを認識します。その後、ターゲットRNAはRISCの働きによりsiRNAの中央部分から2つに切断され、即座に分解されます。そのため、ターゲット遺伝子の発現抑制が誘導され、タンパク質への翻訳が阻害されます。

RNAiとkonockout

これまで遺伝子機能を解析する手法としては、遺伝子を人工的に欠損させることによって完全に遺伝子の発現を消失させる手法が利用されてきました。これはknockoutと呼ばれています。
knockoutの手法は、目的の遺伝子を完全に抑制することができますが、遺伝子解析の結果を得るまでに時間と手間がかかる等いくつかの欠点があり、遺伝子解析を行う上での完全な解決手法とはなり得ませんでした。

これに対してRNAiは、siRNAやdsRNAを細胞内に効率的に導入することができれば、すぐにRNAiが誘導され遺伝子発現を抑制することができます。RNAiの誘導は遺伝子を傷つけることなく、単に遺伝子発現を抑制するだけなので、knockoutに対してknockdownと呼ばれます。
knockdownとknockoutのそれぞれにメリット、デメリットがありますが、knockoutについては、伝統的な遺伝子解析の手段として依然有効ではありますが、近年では、簡便な解析が可能となったknockdownが多く利用されるようなってきています。

knockdownとknockoutそれぞれのメリット、デメリット knockdown メリット
  • 誘導が簡便である。
  • knockoutでは欠損した場合に致死となる遺伝子の解析が可能である。
  • 遺伝子自体を傷つけることがない。
  • 特異的な発現抑制が可能である。
knockdown デメリット
  • 遺伝子発現を完全には抑制できない。
  • 発現抑制の効率は、用いるsiRNAの配列に依存する。
  • インターフェロン応答を誘導する可能性がある。
  • オフターゲット効果が現れる可能性がある。
knockout メリット
  • 遺伝子発現を完全に抑制できる。
knockout デメリット
  • 欠損させた場合に致死となる遺伝子の解析が困難である。
  • knockout動物の作製に時間と手間がかかる。
  • knockout技術が確立できていない生物には適用が困難である。

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